中国伝統医学の漢方と鍼灸あんまの専門家・中医師 イトウガクです。
さて、中医では「冬病夏治」という言葉がありまして、簡単に言えば冬の病は夏に治すと言う意味です。
今回は、中華圏で代表的に行われる「三伏(さんふく)」をご紹介します。
◎三伏とは?
「三伏」とは、夏至・小暑・立秋以降の「庚の日」を基準として、夏の盛んになった熱を秋に向けて抑えさせる時期と考えられています。
▽三伏は3期に分かれる
夏至から第3庚日を「初伏」、第4庚日を「中伏」、第5庚日あるいは立秋後の次の庚の日を「末伏」と数えます。それぞれ10日間あり、中伏だけ20日とする地域もあるようです。
ここでの「伏」の持つ意味とは、五行の金が持つ気を降す作用を表します。金の作用で気が降りる事で、地面・大気の熱が地中へと伏するということです。
地中へと潜った熱が、地下熱となり翌年の春になると地表へと現れて草木を生じさせます。
▽彭子益の語る三伏
清代末の彭子益先生は、三伏の気候状態を以下のように述べています。
初伏前は、地表は暑いけれども、熱気が鼻をつくような感覚はない。初伏を過ぎると、地表で熱気が鼻を突くようになる。中伏の時には、人が地表を歩くと、熱気が地面から蒸しあがってくる感覚が強くなる。これが暑気が地中へと入る前景となる。
中伏を過ぎて末伏になる。この頃は処暑の前後に当たり、処暑が過ぎると、地表が涼しく感じるようになる。これが多くの暑気が地中へ入る現象を表している。
◎三伏でする事
夏至・小暑・立秋の説がそれぞれありましたが、何れにせよ夏至以降を基準と考えてるのは見て取れます。夏至は名の通り「夏の至り(極み)」であり、夏至以降では体内の陽気はお腹を暖めるため下降していく必要があります。
実際にはこれらの日を目処に、白芥子・細辛・甘遂・延胡索などの生薬を潰した三伏貼という湿布を使ったり、三伏に灸をする事で背中や胸を温めることで秋の涼やかな気が一気に体に入らないようにします。
▽三伏治療の効果
主には秋や冬に呼吸器疾患が多く見られる人や、アレルギー性疾患、冷えによる腹痛が多い人、冷えによる腰痛などに使われます。
◎私見三伏
▽三伏の一般論
一般的な三伏の養生意義とは、夏の盛りの時期になると、毛穴が開き汗がでて身体に陽気が行き渡ることにあります。
そこに三伏貼などを使い、その状態をさらに高めることで、陽気を補い正気(免疫力)を高めて臓腑の機能、特に肺を調整すると考えられている。
○三伏とはこう考える。
気が下りるべき時期に、肺を温めて気の下降を灸を使い促せば、自然と病気にならずに済む時期。という事です。
夏至は夏の盛りの頂点であり、次第に熱は納まり涼しくなっていきます。
自然界では、大気圧は疎から密へと向かいます。気圧は密であれば寒く、疎であれば暖かくなります。
クーラーのついた部屋の窓を開ければ熱風が入り、暖房の効いた部屋には冷たい風が吹き込む。これは密の気圧が疎へと向かう為に発生し、気圧が等圧になろうとする為、風も起こります。
人は小宇宙であるとする「整体観念」を持つ中医は、当然として自然の法則に従う事になるので、上記の気圧の移動の法則が成立するわけです。
つまりは、秋に外気が涼しくなるけれども、体内は熱が残る状態になります。特に肺が働か無い時は、胸の部分に熱が溜まります。
その為に、冷たい外気が自然に体内へと流れ込み、冷えに関わる多くの疾患を生む事になります。
三伏では、温める事で体内が急激に冷えることを抑え、病気の予防ができていたのでは無いかと考えられます。
この時期は、暑くとも秋へと向かう過渡期でもあるので、秋冬の養生をいまのうちから始めようではありませんか!